これを見て何の部品かお分かりだろうか。最初に見たときには驚きとともに当時の機械の底力を垣間見た気がした。電子制御で何でもやっつけてしまう現代と違い、機械に頼るしかなかったこの時代のメカニズムは非常に興味深い上に設計者の魂を感じることが多い。ただスライドさせるためだけにあるこの部品だが、ただの筒とこの機械では全くスムーズさが違う。ある種ミリタリーチックな印象はこの時代のドイツ製品の特徴だろうか。
懐古主義でもなければ「機械の温かみ」なんておセンチなことを言うつもりはない。ローテクを信仰することもない。しかし機械でしか出せない味や深みがあるのは否定できない。
jazzギタリストPat Methenyはオーケストリオンという19世紀に発明された自動演奏器を現代の技術を駆使して蘇らせた。もちろん基本はアナログの打楽器や弦楽器であり、それを大仕掛けなカラクリで自動演奏させるのだ。彼はそのカラクリ部分に現代のソレノイド等を投入し、当時の技術では決して成しえなかった高速連打音や多楽器同時演奏等をそこから生み出した。
聴いてみると現代のコンピューターの打ち込み音楽とは比較にならない。実際にカラクリが弦を弾いたり鍵盤や太鼓を叩くので音の深み、圧倒的な存在感、迫力が段違いなのだ。決してコンピューターが作り出すことができないソウルを感じる。
当社でも当時の優れた機械や部品を現代の技術を用いてさらにブラッシュアップさせていく所存である。この画像の部品(sliding sleeve)も最新の表面処理等で元々の性能を上回り、摩耗摩擦を低減し耐久性すら上げるものに仕上げることも出来る。Patがやったように、最新のテクノロジーは古い優れた機械にこそ有効であり、そもそも持っていたポテンシャルを引き出してあげることができる。
何もかも利便性を追求した結果薄っぺらいモノばかりになってしまった今、こういう機械に接することができることを幸せに思う。
2011.11.20